ずっと建築の仕事をしてきた中で、住宅建築に多くの時間を費やしてきました。
学生時代の専攻は土木工学でした。学んでいくうちに自分には合わないと感じていましたが、卒業はしなければならないと思い、なんとか踏ん張って勉強してきました。
合わないといっても、中には構造設計や環境工学など、好きな授業もありました。
デザインやインテリアにも興味はありましたが、土木ではあまり役に立ちそうもありませんでした。
就職は建設ゼネコン。心なしか仕方なくといった感じ。
仕事をしてみて、やっぱり合わず、いつの間にか転職を考えていました。
その時に頭をよぎったのは、「家」というキーワードです。
家に関する求人を探し、見つけたのがハウスメーカーでした。
土木（建設）と家（建築）では分野が異なりますが、なんとか面接してもらえることになり、無事再就職することができたのです。
そこでの配属は設計積算という部署。ゼロから学びながら、家づくりの仕事が始まりました。
実際の仕事は想像以上に過酷でした。
午前９時開始から深夜２時、３時まで、毎日怒涛の如く仕事に没頭せざるを得ませんでした。
心身ともに疲れ切っていたとは思いますが、家づくりに係る仕事に生きがいを感じてもいました。
あれから３０年近くが経ち、今でもその時の生きがいを失わずにいます。
自分でも不思議でしかたありません。
建築、特に住宅業界は、皆様が思う以上に儲からない業界です。
家は、個人が購入する最大の買い物であり、数千万円掛かります。
従って、業界をご存じない方は、さぞ建築業者は儲けていると思っていることでしょう。
しかし住宅建築は、一つの商品を大量生産して、多くの顧客に販売するものではありません。
数多くの材料を顧客の意向によって仕入れ、数十人の職人が手作業で現場で組み立てるのです。
数千万円もする住宅から得られる利益は、ほんの一握りしかないのが実態です。
住宅建築が儲かるものと思って参入しても、きっと挫折することでしょう。
そのくらい儲けが薄く、尚且つ、どこまでも手間がかかるのが家づくりなのです。
若いころから設計士さんや職人さんと交流（飲み会）して、どうしてこの業界で仕事をしてるのか、いつも聞いていました。
返ってくる言葉は「家を作るのが楽しいからさ」という人が大多数です。
お前はどうなんだ、という質問に私は「自分も家を作る仕事が好きで楽しいから」と答えていました。
そこで、設計士も職人も「それでいいじゃないか」とまとまったところでお開きとなります。
住宅業界の不条理に、何度も業界を辞めようと思いましたが、最終的にこうして建築の仕事をしています。
どんな不条理や理不尽でも「やっぱり家づくりって楽しいんだよな」と最後にはこう思ってしまうのです。
どうして家づくりって楽しいんだろう。
この疑問に答える言葉を、私自身まだ思いつきません。
理由付けは何だって言えます。
施主様の幸せな笑顔が見たいから、想像が形になっていくから、間取りを作るのが楽しいから･･･。
ただ、自分ではもっと何かがあると思っています。
その一つが、お客様の家づくりでの後悔を減らすことです。
家づくりは楽しいことですが、その楽しい気持ちを残念な気持ちに変えるのが、お客様の後悔された言葉や表情です。
私自身は、幸いにも自分が係わったお客様にそう言われたことはありませんが、他社で検討している、または建てたお客様とお話する機会では、後悔しているという言葉が耳に入るようになりました。
もしかしたら、自分自身にも、係わったお客様の中で後悔を感じている方がいるかもしれない、そう思うようになったのです。
家づくりは楽しい、しかし、その気持ちだけでは足りない。
そう思い始めてきたのです。
その時が、およそ十数年前です。
その後、仕事をしているうちに、その思いは次第に大きくなっていきました。
家づくりをするお客様が、本当に納得して、心が笑顔になってこそ、家づくりの楽しさの本質に出会うのではないか。
その気持ちから、家づくりサポートの仕事をしてみたくなったのです。
それはお客様のためでもあり、自分自身のためでもあります。
近年、全国で様々な第三者サポートや、家づくりのサポートをする人や会社が増えています。
きっと、その方たちも家づくりが好きで楽しくて、お客様の後悔している姿を見たくないと感じていることでしょう。
今思うことは、住宅業界が健全化し、すべてのお客様が、笑顔で楽しく家づくりができるようになったらいいということです。
もしどうなったら、家づくりサポートの仕事も必要なくなるかもしれないかも、と思ったりもしています。
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